大阪府 Y社

大阪府東大阪市にある、Y社の改善紹介です。

Y社は建設機械部品の製造・販売及び、建設機械部品の再生修理や改良を行う会社となっております。

Y社の5Sの取り組みはというと、本やセミナーで勉強したり、著名なコンサルタントを招いて指導してもらったり、過去何度も5S活動にチャレンジしましたが、どれも上手くいかなかったようです。

今までどのような5S活動を行ってきたかと言うと、コンサルタントの現場巡回で、気になった箇所を指導して頂き、指導が終わると指摘箇所を資料にまとめ、活動計画表を立案し、スケジュールに沿って活動するというものでした。

一見すると、どこの5Sの本にも書いてある王道のやり方かなと思いますが、5S担当者に意見を伺うと、この「資料作り」に非常に時間がかかるという事と、期間内に指摘箇所を終わらせないといけないというプレッシャーがかかり、仕事との両立が出来なかった事。また、進め方としても、1つの指摘箇所が完結しないと他の活動に進めないという事で過度のストレスが溜まり、担当者が1人ずつ活動から離散し、ついには自然消滅したとの事でした。

そのような環境の中、我々の会社にオファーがあった訳です。過去に何度も5Sにチャレンジするが、上手く行かなかった訳ですから、新たに5Sを始める際も現場の率直な意見としては・・・

というような否定的なものでした。

5Sの難しいところは王道のやり方・進め方が必ずしもすべての会社で上手く行くわけではないという点。つまり100社100様。その会社に合わせた進め方をしないと上手く活動が浸透していきません。

まずは、一般的な5Sと我々の推奨する5Sがどのように違うのかを、経営者から担当者に至るまで知ってもらわなければなりません。

座学の時間を設け、目的や定義、進め方など徹底して講義しました。座学後にある担当者から「今までやってきた5Sとは真逆ですが、良いのですか?」と問われたぐらいです。

私たちの行う5S活動は、現場の人に考えてもらう事を主眼にしています。コンサルタントの言われた事をただやっているだけでは一向に現場は成長しないですからね。まずは、座学でお互いの考え方を共有して、いよいよ活動スタートです。

まず、何から始めたかというと、「時間確保」です。様々な会社でこの5S活動が上手く行かない理由の一つとして会社側が十分な時間を与えないという事があります。「5Sは単なる片づけや掃除なんだから、時間内でやるのが当り前だ」とばかりに十分な時間を与えないと、活動自体も不十分なものになってきます。

そこで、経営陣とも相談して毎週土曜日の15:00~17:30の2時間30分は5Sをする時間を言う事で確保しました。メリハリを付けるため、開始前に一度全員集まり、中礼をしてから活動を行うようにしました。

全体で活動できるのはこの時間のみ。そのため日ごろから気になる箇所を各担当者で探しておいて、当日は集中して効率的に活動するようにしました。

最初に取り掛かった箇所は、「食堂」です。この理由は簡単。みんなが使用する場所だからです。社長も活動に参加していただき、徹底的にきれいにしました。5Sに否定的な人も肯定的な人も、重要なのは手を動かす事。最初はほぼ強制参加でスタートしました。

次に製品ラックです。棚に入りきらないまで置かれた製品やパレット。これも思い切って整理しました。また、雨風でさび付いた重量ラックはペンキできれいに塗りなおし、再生させました。この改善前は、新しい棚を買えばいんじゃないかと現場からは声があったようですが、自分たちでできる事はやってみようという事で修理・改造・塗装は社員自ら行いました。

大量に積まれていたパレットや、錆びていた製品を整理し、2台あった棚を1台になるように溶接で改造してくれました。現在、製品がこの棚からはみ出さないように数量管理を徹底しています。


事務所も改善します。長年5Sをやっていると、現場と事務所の状態は相関があるなぁと感じます。つまり、「乱れた現場の事務所は同じく乱れている」「きれいな現場の事務所は同じくキレイである」という事です。例外もありますが、ほぼほぼの確率で相関が取れます。

Y社の事務所もやはり乱れていました。(下図参照)

過去に5S活動として、活動した時期があったにもかかわらず、机の上に書類などが大量に積まれており、仕事をするスペースが全くない状態でした。

もしかしたら使用するかもしれない・・・という考えから捨てることが出来なかったり、机の上もデスクマットが残っていたり、書類も「捨てないで欲しい」という声もあがってきたりしました。「捨てないで欲しい」という声に対しても、いきなり捨てるのではなく、段ボールに入れ、違う場所で移動したりする事で、使用者に説得しながら徐々に進めました。そうしたところ、まず第一段階として、下図の状態まで進みました。

ここまでくると、机の管理者も「机の上に何もないって快適だね」と活動に参加してくれるようになり、さらに5Sを進めた結果、下図のように、机の上は電話とPC以外何も置かないという所まで改善が図れました。


現場では設備の整理も行いました。

下図は15年以上使ってない設備の写真です。

我々の5Sを導入する前から、「何十年と使用していないし、場所をとりすぎて商品を置く場所が無いので困っている」と説得していましたが、なかなか撤去の許可が下りませんでした。

しかし、根気良く2年に渡って5S担当者が説得し続けてようやく撤去することが許可されました。

2年以上説得したことで、使用していた当時ではY社の看板とも言える機械の撤去に成功。撤去したことで、隠れていた扉が錆びていて、ものすごく汚いことも分かったので、塗装も行ないました。扉と床を塗装し、このようにキレイなスペースに生まれ変わりました。(下図参照)

この15年使用していない設備の撤去から、Y社の5S活動はエンジンがかかり始めます。Y社の象徴的ともいえる大型機械を捨てたことで、現場には「今回の5Sは本気だ」という気運が生まれ、当初は批判的であった社員もだんだんと活動に参加してくれるようになりました。

中二階に置いてある木箱を整理したり、その流れで中二階を撤去したり・・・活動はどんどん活発になっていきました。(下図参照)

下図写真のような鉄パレットも「いつか使うだろう」と取っておいた物ですが、思い切って整理してもらいました。この整理した空間に普段狭くて手狭だった機械を移設する事が出来、作業効率が大幅にアップしました。

Y社の現場は加工課、鋼板課、ロール課と3課に分かれていますが、この度の徹底的な整理を行う事で、ロール課に大幅なスペースを確保する事が出来ました。(工場内のレイアウト変更は以下の図の通り。)

このスペースは現在では新規設備を導入して新規事業で活用しています。「もし、5Sをせずにスペース拡大がなかったら・・・新たな工場を建ててそこで仕事をしているでしょうね。」と担当者は答えてくれました。


ロッカーや外壁の波板などもすべて自分たちで交換しました。


特筆すべきは、この大幅な改善活動は、毎週土曜日の2時間30分の枠で行った改善だという事。5Sを進めていくと、「活動する時間がありません」と仰る方が少なくありませんが、本当に時間が無いのでしょうか?

普段の仕事内容を見直して、余計な仕事はやめたり、日時を決めて全員で取り組むなどの創意工夫をすれば、そのくらいの時間は取れるはずです。

「一度すべての仕事を疑ってみる」

我々の5S指導の中核の考え方です。重要だと思っていたが、捨てても(やめても)何の支障もないというケースはよくあります。


最後に、現在Y社の5Sの取り組みを紹介します。

自社だけで5S活動をしていても、いずれは衰退してしまう。という過去の失敗を糧に、現在は東大阪市周辺の企業を中心に、「大阪3S実践会」というものを結成しました。Y社のほかに、5S活動を行っている企業の社員が集まり、月に一度、輪番制でお互いの職場を提供して、気になった点をアドバイスし合うという活動を行っています。

他社を積極的に受け入れ、意見交換・巡回を行う事で、普段Y社の社員だけでは気づかなかった「見る力」「気づく力」を養っています。

また、月1回3S会議を開いて、活動進捗や他部署との意見交換なども積極的に行っています。やめたくてもやめられない活動にしようという事で、社員一丸で現在も5S活動に取り組んでいます。

さて、長年5S活動が根付かず苦労されたY社ですが、なぜ今回は上手く活動を浸透させる事が出来たのでしょうか?

その理由を社員にヒアリングすると以下のような返答が返ってきました。

「この度の5Sは、まず整理から入ったのが良かったと思いっています。以前の5Sは清掃したり工具を並べたりする事がほとんどでしたから、その場はすぐきれいになるんですけど、1週間もすれば現場は元通り。さすがに担当者もやる気がなくなって途中で辞めていったんですが、整理をして要らない物を捨てきると、元に戻りようがないですからね。また、改善の期限を設けなかったのが本当に効果的でした。以前の活動は〇月〇日までに終わらせるようにとトップダウンで指摘があったのですが、仕事との兼ね合いで中途半端に終わらせる事が常態化していました。しかし、この5Sは、この期限も自分たちで設定する事ができるという事で自分たちが判断して納得するところまで改善できるので非常に効果的でした。」


性善説で考えると、誰でも、どんな人でも働くのが好きで、勝手に進みだす推進力(エンジン)を持っていると考えています。しかしその推進力(エンジン)以上に周りからの反対(ブレーキ)がかかると止まってしまいます。車と同じですね。

今回の改善で我々がやった事は、エンジンをふかす事ではなく、周りのブレーキを外す事。それだけで現場は自ら考えてほっておいても勝手に動き出します。もちろんそれには、経営側と現場側がお互い信頼しあい、多少のミスを許せるような職場環境が必要になってきます。最初の座学でこの辺りは意識して、時間をかけてレクチャーしていきました。

今回紹介したのは、大阪府にある本社での改善ですが、全国各地に営業所もあります。現在その営業所も含めてを全社的に5Sを浸透しようと頑張ってくれています。