栃木県宇都宮市にある、M社の改善紹介です。
M社は自動車用クラッチダンパースプリングやエンジンバルブスプリングを製造している会社です。生産拠点は宇都宮市内に2カ所、海外では、アメリカ・中国・メキシコにも生産拠点をもつ企業です。
足利流の5Sの考え方・取り組みに賛同して頂き、2014年から活動をスタートさせました。活動目標としては、「安全確保」と「品質向上」5Sを通して人材育成を図る事を目標に活動しております。
活動内容ですが、月1回の座学と巡回指導で全社的に5Sを浸透させていきました。M社は従業員数が300名以上の企業であり、社員全員に5Sの考えや目的を浸透させるのは時間がかかりますが、期ごとに5Sメンバーを入れ替えながら全社員に浸透するよう座学を行いました。
同時に現場巡回も行い、整理から始めていきました。ポイントは出来るだけ簡単な物から捨てていく事です。「いつか使うだろうと取っておいた端材」から始まり、「まだ使用できるが汚くて見栄えの悪くなったコンテナ類」「工具棚や台車」、「不要な設備」という順番で徐々にハードルを上げていき整理を行いました。(下図参照)
不思議なもので、最初は捨てられなかった現場作業者も物に手に触れ、簡単なものから決断して捨てていく中で、途中からエンジンがかかり、捨てる事に抵抗がなくなって、どんどんモノを捨てられるようになってきます。
この一連の整理活動を行い、「自分の周りには、意外と不要なものがある」「物がなくても仕事はこなせる」と気づき、成功体験を得た方は、物への執着がなくなり人が変わったように活動に前向きになってきます。
次に、清掃ですね。
M社では毎週月曜日の8:00~8:30の30分間全員が清掃活動を行います。 ポイントは、いつもの作業中では手が届かないところを中心に清掃します。清掃に時間がかかりそうな箇所は職域リーダー中心に職場・工程内の全員で一斉に取り組み短時間で完了させる事にしています。
さらに、「自分たちの職場をもっと快適に働きやすい場所にしよう」という事で、作業台も使いやすいように変えました。従来の作業台は、ツール置き場も兼ねていたため、無駄に大きかったり、他職場から出たものを使用していたため、使い勝手の悪い物でした。(下図参照)
そのような問題を解決するために、まずは作業エリアとモノを置くエリアを完全に分け、作業者の使いやすい高さを意識して省スペースで作業台を作り変えました。ここまですっきりとした作業台を作ってしまうと、余計なものが溜まりにくくなります。また作業者の作業も統一化されていきます。製造業などでは、作業に慣れてくると、ついつい自分にとってやりやすい自分流が生まれてきますが、それは棚や台車に「余白」が多い事で生まれます。パっと見た瞬間置けるものは少なく限られてくる空間だと、人の行動に制限がかかり、どの担当者も同じような画一的な動きになってきます。これはすなわち安全にも繋がってくる非常に重要な考えです。(下図参照)
作業エリアの省スペース化を意識し、前方の見通しや帳票類の置き方も統一して作成を行いました。これは作業者に非常に好評で、各作業者にベストな形の作業台を数台作成しました。
次に、段取り替えの時間短縮化にもチャレンジ。
生産品が変更になる際に、段取り替えの際、外したツールを設備にチョイ置きしており、加工が始まってもそのままにされている事がよくあったのですが、高価なツールの破損や、誤組みつけのリスクもある事から段取り台車を作成してもらいました。 写真のように次に使うツールを事前に準備する外段取りをルール化して、段取り時間を5~10分/回短縮する事に成功しました。
段取り台車(下図参照)
身体に負担がかかる重筋作業も改善していきました。 製品が一杯になったコンテナはシューターから一度持ち上げ、機械後方にある台車に移動していました。この際、持ち上げの重筋作業が発生していました。(下図参照)
そこで作業者の負担を出来る限り無くすために、下記写真のような台車を作成しました。
こうすることで、箱の台ごと引き出し運搬台車まで押しながら移動する事が出来るようになりました。運搬台車への乗せ換えは発生しますが、回数が減り重筋作業の軽減につながる改善にも取り組んでもらいました。
このような地道な活動を続けていたところに、新たな話が舞い込みます。
それは、産規模拡大と生産性向上のため、新工場設立するというもの。
そのためには、
- 新工場での最適なレイアウト構築の必要性
- 現行設備の200~250台の設備を移設の必要性
- 移設後のスムーズな生産
など課題が出てきました。
この場合、注意したいのが、現行の設備をすべて移設してどのようにレイアウトするのか、つまり整列改善にいきなり頭が向きがちですが、すべての設備を移設する前にある事をやってもらう事にしました。
それは、整理です。つまり要る設備・要らない設備を分け、要らない設備は捨てる、または残しておくという事を徹底して行っていただきました。
これは普段から地道に5S活動をやっていて本当に良かったと実感した事例でした。
M社の社員は地道に5Sをやってきて「要らない物は捨てる」や「小回りのきく生産」に耐性ができていたので、要る・要らないの決断は非常に早く、設備費用の削減・移設時間の短縮に大きく貢献してくれました。
勿体ない精神で、普段からすべての物を取っておく、捨てられない人はこのような場合、捨てることができず、すべての物を移動する事になります。
結果、不要な設備を時間もお金もかけて管理する事になり多大なる無駄が発生します。
M社の社員は日々の5S活動で培った眼力と決断力で、要る要らないの判断を非常に早くこなしてくれました。このようなスピーディな決断を目の当たりにして「考えて働く集団」が出来つつあるな、強い現場になってきたなと感動しました。
また、普段からパイプツールを活用していたこともあって、製品台や連結台などを素早く整備でき、スムーズな稼働対応をする事が出来ました。
結果として、大掛かりな引っ越しに対しても計画通りに移設が完了、お客様にも安心して製品を届ける事が出来ました。
新工場の設備レイアウトに関しても、田の字ラインを採用して、不要なものがたまりやすい壁際・窓際に敢えて通路を作りました。この直角・平行のレイアウトと移設前の作業台改善が重なった結果、非常に見通しのよい環境を作る事が出来ました。この見通しが良い職場というのは、物が溜まりにくいだけではなく、安全性も向上します。フォークリフトや作業者の動線が見えやすい空間になっていると、どこに何があるのか異常が検知しやすいですし、とっさの事故も防ぐことができます。(下図参照)
併せて、新たに材料の色分け管理にもチャレンジしてもらい、以前では難しかった定置化管理も出来るようになりました。
その他にも、
・清潔な工場となり、お客様からお褒めの言葉を頂けるようになった事
・在庫管理への意識が向上し、在庫の削減が図れた事
・自職場内だけでなく、他職場との繋がりが深くなった事
・5Sが定着し、『自ら考え行働する』社員が増えた事
など、たくさんの効果につながっています。
今回紹介したM社の改善事例は、トップが指示したのではなく、現場が自主的に考えて行動してくれたものです。このような強い現場力が作れる企業は、今後いかなる不測の事態にもその場に応じた適切な判断が出来るようになってきます。また、現場が主体的に動くようになるので、決断スピードが速くなります。
5Sは本当に地道な活動で、1つ1つの活動はすごく小さな事なのかも知れません。
その小さな事をずっと続けて積み上げていくと、当初は出来なかった事が出来るようになったりします。この度の工場移設で、スムーズに移設できたことは「日ごろから5Sを着実に行ってきた成果です。」と担当者もお話してくれました。
5Sには終わりがない。人が働いていて、物が存在する限りずっと続く活動であるという点です。どんな状況でも『5S活動を止めない』体質をつくる!
M社の改善は活動がまだまだ続きます。