埼玉県 O社

埼玉県にあるO社の5S改善事例をご紹介させて頂きます。

事業内容はアルカリイオン整水器の開発・製造 業務用、産業用、ハイクロソフト水生成装置の開発、製造を行う会社です。

また、6事業所において水宅配事業を行っており、海外拠点としまして中国蘇州にて中国国内外向け製品の製造・販売も行う水関連機器(産業用・業務用・家庭用)の総合メーカーです。


O社が足利流5Sを導入した経緯についてご紹介していきます。

O社が5S活動に取り組んだきっかけは、今後の人材育成と職場環境の改善(見える化、魅せる化、効率化)の必要性を強く意識していたことからです。以前O社の顧問が、日刊工業新聞社様発行の連載記事を読んでいた時、足利流5Sの存在を知って頂いたのがきっかけです。様々な企業で行っている5Sは、上からのやらされ感が強く感じられ、それとは真逆の自主性を重んじた足利流5Sに感銘を受け、ネットワーク見学会など、工場をオープンにして情報を共有している考え方はめずらしく「いつかアプローチできたら」というところから始まったようです。すべてを包含すると考えられる5Sの導入効果に期待を寄せ、O社の顧問、部長の熱望により、2011年に足利5Sの門に参加してくれました。企業見学会に参加することから始め、その効果に驚かれながら、足利から離れた埼玉県でこれをやりたいという思いがだんだんと強くなっていったようです。

これまでのO社の取り組みは、その場限りの活動でした。よくあるhow toによれば、まずは捨てることからだと始め、見様見真似で清掃活動も行いましたが、単なる大掃除レベルに留まり、捨てたはずのモノもすぐに元の状態へ・・・。社員の自主性にもつながらず長続きしません。なぜ、こうなってしまうのでしょう? なにか良い手法は無いか?と足利流5Sと出会うきっかけへ繋がっていきます。


これらを打開すべく2013年から足利5S学校が主催している「社内5Sインストラクター養成講座」に出席して5Sの教育を受けてもらいました。5Sを推進している企業では、5Sインストラクター達が多く活躍しており、O社でも人材育成に繋がればと、インストラクター養成講座を第4期、5期と学び、2名体制で活動をスタートしました。 また、見学先で行っている5S活動では、入社して間もない方達で編成されたチームや、各職場でリーダーを設けたりされていることから、弊社でも5S改善チームを立ち上げ、職場リーダー、メンバーと共に土曜の出勤日を主な5S活動日としました。

5Sの始まりは「整理」です。工場の中には要らないもので溢れかえっていました。最初のうちはとにかく要らないものを捨てていく日々の連続でした。いつか使うだろうと何年も放置してしまった物や、勿体ないという理由で、使用することのない部品が山のように会社の至るところから出てきます。これらを、勇気を持って捨てる努力をしてもらいました。失敗もありましたし、時間はかかりましたが、そこにはスペースが生まれました。これらは現場の判断により、会社として廃棄することになったものです。従業員主体という事もあり、達成感が生まれ、これからいろいろな事にチャレンジしていく良いきっかけになりました。

従業員の安全確保が第一ということで、敷地内にあった凹みや、段差を補修しました。最初は、素人に補修などできるのだろうか?と皆さん躊躇していましたが、簡易的なアスファルトの補修材や、砂利、モルタル等を揃え、改善を実施しました。失敗も多かったですが、出来上がりはなかなか良いのではないでしょうか。それよりもうれしかったのは「次はこうしたい、こんなものが欲しい」という思考に繋がったことです。改善する喜びや、意識の向上を感じた瞬間でとなりました。

外階段の滑りとめの施工も行いました。雨の日は滑り易く危険な為、どうにかしたかった場所の1つでした。これは駅の階段等で使用されている滑り止めからアイデアを得ました。比較的安価に、効果は絶大で、社内の他の場所にも適応されました。

しかし5S活動は上手くいくことばかりではありません。下の写真のように時間が経過すると剥がれてしまう箇所がでてきてしまいました。しかしそこは「巧遅より拙速」。場合によっては上手で遅いより、下手で早い方がいいと進めた活動で、上手くいかないこともあります。失敗をそのまま放置せず、剥がれた原因を探り、解決方法を考えることで更なるレベルアップへと繋がっていきます。失敗を知って乗り越えたものはより良いモノになるのではないでしょうか。他にも、お客様が出入りする窓口の壁が黄ばんでいたため、張替え作業を行いました。完成後は明るくなり、とても清潔感が出ました。壁紙1つで来社されたお客様への印象も大きく変わり、また、コミュニケーションの1つとなります。

お客様駐車場の白線が古く消えかけていることが分かり、ペンキ塗りを行いました。これらの作業を続けていくうちに普段、あまり関わりの無い人達ともコミュニケーションがとれたことは勿論、次の課題が見えるようになってきたことが大きい効果です。 ラインを引くことにより人の心理が働き、それを守ろうとする動きは駐車場に限らず、活かすべき内容です。

しかし、ある一定の期間が過ぎた頃でしょうか。活動が停滞してしまいます。いわゆるマンネリ状態です。インストラクターとして教育を受けた社員の職場は綺麗になっていくのですが、これを続けている内に他の部署との差がついてしまいました。大勢で1つの活動は出来ても、その場限りの活動という傾向になりがちでした。

何のために5Sを行うのか、足利5Sで学んだことを思い出してもらいました。それはお客様のため、社会のため、もちろんそうですが、その結果は「自分のために」行うということです。トップダウンの5Sではそもそも社員の自主性と言いながらも、自由発想や改善意欲の妨げになるのではないかという事から「社員の自主性」を何よりも重視する方向で、再度、活動を再開しました。

5S活動を会社全体で行うことの大切さを意識しての再キックオフとなりましたが、そんなに簡単ではありません。下の写真のように、樹木の選定作業を皮切りに、多くの社員に積極的に参加を促し、まずはそこから始めました。それは、何らかの行動によって得られるものが達成感となり、次への活力に繋がるという思いを他の人たちにも実感してもらうのが一番良いと判断したからです。

2-6-2の法則というものがあります。集団の中で、「自発的に取り組む人」「様子を伺い待っている人」「全くやらない人」の割合を指した法則です。根気よく活動を続けていく中、協力してくれる人たちが現れたときは、そのチャンスを逃さないように、5Sメンバーはサポートに集中してもらいました。意欲的に取り組んでくれる仲間のおかげで、1つ、また1つ5S活動の推進剤となっていったのです。現在では、足利5Sインストラクター養成講座の第4期、5期に続き、先日、第7期を卒業した計3名のインストラクターで活動しております。


ここからは、会社の中や、業務の改善も含めご紹介していきます。

作業現場や廊下は1日に何度も色々なものが往復。当然、床面の傷みや汚れも出てくる為、定期的な清掃や補修が必要になります。古いペンキを剥がし、再塗装。普段の仕事とは違った作業に皆、楽しんで取り組んでいるのが分かります。綺麗なことは良いことです。お客様や従業員が通る通路や床が綺麗であれば印象も変わり、気分も良いものです。皆でやり遂げた後は心も綺麗にしてくれます。

「自分たちのことは自分たちで」と、ペンキ塗りで職場を明るく印象をかえました。暗いと感じていた職場が明るくなり、苦労していた清掃も楽に、落ちているゴミにも自然と目が行くようになりました。得られた効果はそれだけではありません。自分たちで5Sをした職場をきれいに保とうという意識が芽生え、パレットをひきずらない、台車を大事に扱うなど従業員の働く姿勢にも変化が見られました。

またオレンジロード(通路)を確保したことで今まで曖昧になっていた基準線が明確になり安全性・作業性もよくなりました。


整理を終えてこれから、モノの置き場をどうするか、それならばまず、整列を試みます。乱雑に置かれているよりそれを改善すること、使う人の意識もこの後の整頓につながります。

どのスイッチを押せばどの照明が点灯するのかが一目で分かるように工夫しました。

スイッチの入れ直しによる動作・時間のムダを省き、使わない場所の照明を消す意識が高まるなど、節電効果にも期待しています。


整理や整列など5Sを進めていくと職場環境がスッキリしてきます。すると今まで問題視していなかった「ムダ」が見えてくるようになり、眼力がついてきたことで作業工程にある問題点を探すようになってきました。

作業工程の改善で最初に行ったのは、工程で使用するネジ類を整理・整頓し見える化を図ることです。以前は必要なネジがどこにあるのか・・・探す手間が非常に多くありました。

一度目の改善ではケースに部品番号・部品名を表示し管理することを・・・しかし探す手間は大幅に減ったものの必要なネジをケースごと持っていくスタイルでは締め忘れなどのポカミスは無くならず、なにか出来ないかと考えたのが『ネジの定数管理棚』の作成です。工程ごとに必要な数だけあらかじめ仕分けする。という仕事の変化は簡単に受け入れてもらえるものではなく、最初は仕分けの時間の方が面倒だ、手間が余計にかかるとの声もありましたが、実際にやってみると探す手間が更に減少し、定数管理ができたことでネジの締め忘れなどのポカミスが無くなっていきました。

これは普段の生活の中からヒントを探し出せるように眼力が養われてきたからだと思います。


ネジを探す手間が減ったら、次は工具を探す手間を無くそう!とはじめたのが工具類の姿置きです。これは5Sネットワーク見学会に参加し、他社工場で拝見してから、ずっとマネをしたいと思っていた改善でした。

いざ姿置きをしようと思うと、置き場所に対象物の姿を表示する必要があり、それにはまず、工具を減らす必要があることに気付きます。いったん姿を表示するとやり直しが面倒なので、本当に必要な工具だけを選別し、『不要な工具』を整理することができます。

余計なものを持たず・余計なものを持ち込ませない。整理が厳格になりました。


5Sネットワーク見学会で得た情報は姿置きだけでなく、さまざまな工夫・たくさんの見本があります。その一つがパイプツールによる様々な改善です。いろいろなかたちをつくることができ、何度でもやり直せるパイプツールは、「作る楽しさ」と「使う喜び」が、人材育成と改善力へ繋がると考え、O社でも取り入れる事になりました。

下の写真は、パイプツールで作成した検査機器の移動台車です。

当たり前になっていた日常の動作にも改善すべき点はたくさんありました。しゃがむ動作・立つ動作のムダを削減し、移動もスムーズになりました。作業員の体への負担も減らし、優しい職場環境にも近づけたのではないでしょうか。

思い立ったらまず、やってみる。やってみないと次の一手が見えてきません。一度作ったモノでも、間違ったり、さらに良くしたいという場合にはバラしたり・追加したり・一部を加工したりしてイメージしたものに近づいていく。これを繰り返すことで、モノづくりの基礎となる、考える意識を身につけられることも5Sの魅力の一つだと思います。


お金をかけないでもできる5Sということで最初に作った工具・備品棚です。工場内を整理したときに見つかった使えるモノ・家庭からのリサイクル品や100円ショップを利用して作成したものです。まだまだ理想としているものには程遠いですが、ここで試した成功体験・失敗体験が次に作成する理想の棚への一歩に繋がると思い、現在も奮闘中です。


利益・付加価値を生み出すのはネジを打つ・モノを加工する瞬間にあり、それまでの動作は『動き』であって『働き』ではない。インストラクター養成講座で教えている内容の一部です。動きを減らし、働きを増やす為にはどうしたらよいのか?チームミーティングや普段の会話の中からたくさんのアイデアを出してもらい、O社で3Dプリンタを導入したのをキッカケにさまざまな治具を作成するようになりました。

ネジ穴を探すなど細かい作業のムダに気付くようになり、『次はこんなモノをカタチにしたい』と従業員からの積極的な意見により次々と治具が生まれています。一つ一つは小さくても、それらを積み重ねたとき、とても大きな効果へと繋がっています。


『必要なモノがすぐ取り出せて、かつ、すぐ戻せること』。整頓の対象が掃除用具置き場にまで広がってきています。掃除用具置き場・ゴミ箱、すべてにキャスターを付けています。これにより、移動がスムーズになり、清掃も楽にできるようになりました。


直置きの改善とキャスター化は清掃が楽になるだけでなく、移動が容易になることでいざというときのスペースを生みだします。移動物の傷や打痕削減など品質の向上にも繋がります。

パレットに平積みされた板金類。以前は人の手により運搬していたため、重量もあり相当の時間をロスしていました。必要以上の運搬距離は無駄と捉え、パイプツールによる移動治具を作成。これにより置き場から作業者へ渡るまでのムダ、作業場から製品組み付けまでの時間を大幅に低減することができました。


1台の製品は多くの部品点数により構成されています。生産ラインでは工数削減の為に日々、改善が求められます。下の写真はそのうちの1つ。重量があり、下から上に持ち上げる動作は、体力的にとても厳しいものがあります。また、ラインへの供給方法は、1度に何十個も乗せられた台車で移動する為、とても危険でした。やはり安全第一を最優先に考えなくてはいけません。これらを解決するため、実験的にパイプツールによる台車を作成しました。以前のものよりもコンパクトになったことで、需要、供給のタイミングがよりダイレクトに近づいたことと、且つ、高さを考慮したことにより小さな動作だけで済むようになり、工数や労力を低減することができました。今後は更に改良を加え、ラインへ導入されます。


数多くある部品棚。ピッキングを終えていざ、隣へ移動・・・できません。壁際までびっしりと塞がれているせいで、一方通行です!奥まで行ったら引き返す。この繰り返しに疑問を感じ、気付いたことで大幅なレイアウト変更を行うことになりました。狭く閉鎖的だった空間が開けたことで、モノが取り易く移動が楽になりました。ここからが作業導線を確保したり、次の改善が始まります。


こちらは製品に使用される部品を生産ラインへ引き渡される際、数量、形状、寸法、外観、機能などを検査している現場になります。部品と図面を照らし合わせ、正確な合否が求められますので、当然、作業員が検査をし易い様、レイアウトされているはずなのですが・・・。

皆で共有する検査機器や治具が取り易く仕事がスムーズに、とはいかないようです。

たどり着いた答えは、様々なバリエーションの仕事に対応できる空間を目指すことでした。それにはまず、「スペースの確保」それを始めるには・・・やはり「捨てること」。捨てては考え、また、捨てるを繰り返し変化していきます。

必要なときに必要な書類や治具を取り出せるパイプツール棚。作業者たちがお互いに確認し合えるレイアウトで、コミュニケーションも密になります。


今回のカイゼンで1番変化したのは、現場で働く人のようです。下の写真は、弊社で初めて作成したパイプツールになります。5Sは整理からということで、作成する前に本当に必要なモノだけを選別することから始めました。文房具や消耗品等の置き場として構成されていますが、ここに取りに来た人が一目見て、分かるようレイアウトされております。


下の写真は部品が置かれた棚にあるピッキング用の札になります。

以前は乱雑に置かれ、取りにくく、使い勝手も良くありませんでした。これを改善するためにはどうしたら良いか方法を探していたところ、そのヒントは100円ショップにありました。これはマグネット付きの小物入れになります。

試しに取り付けたところ、札が取りやすく、戻すのも楽になりました。現在は沢山並べ、見た目にも綺麗に管理することが出来ました。前面に設置して見易くなったことで、在庫数に対する意識の変化も出てきました。


いつかの5S見学会で見た工具置き場を社員なりの解釈により完成させたのが、下の写真の移動工具棚になります。以前は工具は使い終わったら工具箱へ戻すという概念しかありませんでしたが、この工具棚は使うときは広げて、しまう時はたたんで収納することができます。この折りたたみ機構はスマートフォンやタブレットのスタンドからヒントを得ました。どう形にしていいのか迷ったあげく、とりあえず手頃なダンボールで試作を作り、しばらく使ってみて、パイプツールにより、現在の形になりました。

キャスター化で移動も簡単、必要な工具類だけで構成されているlことと、仕事が1つ終わったら元に戻すクセ「整頓」ができるようになってから仕事のスタートが格段に早くなり、1日の終わりは机の上に何も残さない状態までになりました。


以下、5Sを進めてくれた改善メンバーのコメントです。

「私達が活動を始めて気が付いたことは、これが当たり前だと思っていた仕事や物事のルールが実はそうでは無かったということです。それは、いままでは目の前の仕事に対してあまり、疑問を感じていなかったとも言えます。5Sを通じ、一番変わったことは、様々な視点で物事を見れるようになったこと・変化を求めるようになったことです。使わない資料や物を捨てたこと、何かを作業した後すぐに片付けを行うこと、身の回りを仕事がしやすいように工夫したこと、これらを繰り返していくにつれ、最初はうまくいかない事や思った通りにならず立ち止まってしまう場面も多くありましたが、改善していくクセが付いたことで、いままでできなかったことも、どうしたら出来るのか考えるよう、思考も変化していきました。そしてうまくいったときにはとてもうれしく、また何かを改善していく活力になっていることは確かです。」

最初は職場を綺麗にすることが前提だった5Sから、仕事の効率を考える5Sへ思考が変化していく。課題は尽きません。

企業見学会においては5S活動における取り組みや、その結果を生で見ることで、自社活動に生かせているアイディアがいくつもあります。

「今後はたくさんの方に来社して頂き、5Sの指揮を落とさないように進めていければいいと思っております。」

O社の取り組みはまだまだ続きます。

様々なアドバイスがあって、成長していくことが必要だと思います。